地政学リスクという言葉は、ニュースでは毎日のように出てくるのに、家計の話とはつながらないまま流れていきます。中東で何かが起きた、という見出しを見ても、それが自分の電気代といつどうつながるのかまでは書いていない。
この記事では、地図と輸送路の話から始めて、最後に台所と電気代のところまで下ろします。結論を先に言うと、日本の場合、地政学リスクはほぼ必ず「輸送」を経由して家計に届きます。
何が起きているか
2026年の地政学リスクを整理したレポートは複数出ていますが、論点はおおむね共通しています。米国の通商政策の変化による貿易秩序の揺れ、中国の影響力拡大、そして中東やウクライナの緊張が供給側のショックにつながる可能性です。
日本企業への影響も数字で出ています。関税をめぐっては約7割の日本企業が影響を受けたとされ、販売価格やサプライチェーン、事業戦略の見直しが進んでいます。ここで大事なのは「販売価格の見直し」が入っていることです。企業がコストを吸収しきれなければ、価格に乗ります。
地理の話: 日本のエネルギーは、狭い海を通ってくる
ここからが本題です。
日本は資源のほとんどを海の向こうから運んできます。しかもその航路は、地図で見ると異様に細い場所を何か所も通ります。
通らなければならない狭い場所
ホルムズ海峡:ペルシャ湾の出口。中東から出る原油とLNGは、ここを通らないと外に出られません。幅がいちばん狭いところで数十キロしかない。
マラッカ海峡:インド洋と南シナ海をつなぐ通り道。中東から東アジアへ向かう船の大半がここを抜けます。
バブ・エル・マンデブ海峡:紅海の南口。スエズ運河経由の欧州航路を使うなら、ここが必須になります。
この3か所のどれかが不安定になると、船は迂回するか、保険料が跳ね上がるか、その両方になります。迂回すれば日数が増え、燃料が増え、船の回転が落ちる。油そのものの値段が上がっていなくても、運ぶコストだけで価格は動きます。
ここが日本の位置の難しさです。輸入に頼るという点ではドイツも韓国も同じですが、日本は選べる陸路がありません。パイプラインで隣国から引くという選択肢が、地理的に存在しない。代替経路がないのではなく、代替手段そのものが海しかない。
歴史の話: 同じ構造を何度も通っている
この形は今に始まったものではありません。
1970年代の石油危機のとき、日本が受けた打撃が大きかったのは、エネルギーの中東依存が高く、しかも海上輸送に全面的に依存していたからでした。その後、日本は輸入先の分散と省エネルギーで対応してきました。原油の調達先を広げ、LNGの比率を上げ、産業の燃費を改善した。
ただ、分散したのは調達先であって、輸送の形ではありません。どこから買っても船で運ぶという構造は変わっていない。だから狭い海が詰まる話になると、50年前と同じ論点が戻ってきます。
再生可能エネルギーはこの構造への数少ない出口ですが、比率が入れ替わるには時間がかかります。今日明日の話にはなりません。
生活への影響: 3段階で届きます
では、遠い海の話がどうやって家計に来るのか。順番があります。
第1段階は燃料費です。電気代とガス代には、燃料の輸入価格を反映させる仕組みが組み込まれています。原油やLNGの価格が上がれば、数か月遅れで請求額に乗ります。ここがいちばん早く、いちばん分かりやすい。
第2段階は輸送コストです。船の燃料が上がると、輸入品の価格が上がります。それだけでなく、国内のトラック輸送の軽油代も上がる。国産品なら影響がない、とはならないのはここです。国内で作った野菜も、店に運ぶまでに燃料を使っています。
第3段階は加工と包装です。プラスチックの包材は石油から作られ、食品工場は熱を使います。原材料が値上がりしていなくても、包んで加熱する工程のコストが上がる。ここが最も遅く、最も見えにくい形で価格に出ます。
スーパーの棚で「なぜこれが上がったのか分からない」という値上がりに出会ったとき、たいていは第2段階か第3段階の話だと思っています。
では、どうするか
個人にできることは限られています。地政学は個人の努力でどうにもならない領域です。
そのうえで現実的な手を挙げるなら、まず電気とガスの契約プランを一度確認することだと思っています。燃料費の変動をどう反映する契約になっているかは、プランによって違います。上がり方が違うということです。
もうひとつは、値上がりを個別の商品の問題として見ないことです。「あの店が高い」ではなく「輸送のコストが乗っている」と分かっていれば、店を変えて解決する話ではないと判断がつきます。判断がつけば、消耗が減ります。
今日できる一手
直近の電気代の検針票を1枚出して、「燃料費調整額」の欄を見てください。ここがプラスなのかマイナスなのか、いくらなのか。遠い海の話が家計に届く経路が、その1行に書いてあります。
参考: 2026年地政学リスク展望(PwC Japanグループ) / 2026年に予想される地政学的動向トップ10(EY Japan) / 地政学リスクと経済安全保障(ジェトロ)
この記事は一般的な情報の整理であり、投資判断の助言ではありません。
この記事のアイキャッチ画像は生成AIで作成しています。


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